地域社会が持続し続けるための条件とは。

大手の賃貸住宅建設会社である大東建託株式会社が過日、10月20日付のプレスリリース資料にて「街の住みここちランキング特別集計 街の幸福度 & 住み続けたい街ランキング 2021<北海道編>」を発表しているのを知り、その発表内容に目を通しておりました。

このランキングは、在住する自治体(回答数 24,646名)と最寄りの駅(回答数 17,023名)の2ジャンルに分けて居住満足度を調査し、それぞれの「街の幸福度ランキング」と「住み続けたい街ランキング」として集計したものであります。今回は特に自治体ベースで集計された「街の幸福度ランキング(自治体)」と「住み続けたい街ランキング(自治体)」にフォーカスして、私なりの独自目線でその内容を語ってみたいと思っております。

まずは簡単に、それぞれのランキングの1位から10位までを転記してまいります。

街の幸福度(自治体)ランキングTOP10   住み続けたい街(自治体)ランキングTOP10
1位 上川郡東神楽町   1位 札幌市中央区
2位 上川郡東川町   2位 札幌市厚別区
3位 恵庭市   3位 河東郡音更町
4位 河東郡音更町   4位 札幌市清田区
5位 河西郡芽室町   5位 札幌市西区
6位 亀田郡七飯町   6位 札幌市南区
7位 札幌市厚別区   7位 札幌市豊平区
8位 札幌市中央区   8位 釧路郡釧路町
9位 札幌市清田区   9位 札幌市手稲区
10位 札幌市手稲区   10位 札幌市北区

以上のように、街の幸福度の1位は上川郡東神楽町であり、2位が上川郡東川町となっております。旭川市に隣接する両町が上位であることを予想しておらず少し驚きもありましたが、同資料内の解説によりますと『「街の住みここち(自治体)ランキング」の因子別では、「行政サービス」「親しみやすさ」「イメージ」「静かさ治安」「物価・家賃」因子で両町ともに高い評価を得ています。』との記述もあり、それなりの理由があることがわかりました。なお、Webサイト「いい部屋ネット」内の「街の住みここちランキング & 住みたい街ランキング 2021」にある「因子別ランキング(自治体)」には全国ランキングが発表されており、「静かさ治安」のにおいて東神楽町が全国4位(北海道1位)、東川町が全国6位(北海道3位)となっており、全国的にも治安が良いという結果が出ておりました。

さて、ここで私たちが在住する東北海道地域でありますが、街の幸福度(自治体)ランキングについては河東郡音更町が4位に、河西郡芽室町が5位になっております。
一方、住み続けたい街(自治体)ランキングについては上位10位のうち8つが札幌市内であって、その他の自治体では3位に河東郡音更町、8位に釧路郡釧路町と、いずれも東北海道地域の自治体がランクインしております。
もっとも、これらのランキングについては調査結果の信憑性を担保するものがないので、調査結果をさらにサーベイする必要がありそうですが、ひとまずここではこのランキングを活かして話を進めていくことにします。

これら2つのランキングで注目したいのは街の幸福度で4位、住み続けたい街で3位となっている河東郡音更町であります。

かつて私も、約4カ月という短い期間ながら音更町に住んでいたことがあり、音更町の住み良さを実感しておりました。音更町での生活に慣れてきたところで転居をせざるを得ないこととなりましたが、音更町を離れることには未練を感じていたことを改めて思い出します。
なぜ音更町はあんなに居心地が良かったのでしょうか。思い返せばそこにはいくつか、いや、むしろたくさんの理由があったのだと思っております。
まず第一に職住近接の環境がありました。音更町は隣接する帯広市にも近く、また帯広市の市街地は市の北東側にあって音更町と接するような位置関係にあります。音更町と帯広市の境界には十勝川があるので通勤時間帯には音更町と帯広市を繋ぐ十勝大橋とすずらん大橋は渋滞しやすいのですが、それでも帯広市の南側や西側の地域に比べて通勤時間のストレスが少ないように思われました。
次にお買い物のしやすさが挙げられます。音更町では町内を南北に縦貫する国道241号線(木野大通)を中心に商業施設が集中しており、私が住んでいたアパートメントから近隣では徒歩、多少遠くても自転車で行き来するのにも苦にならない程度の距離でほとんどのお買い物をすることができました。
さらに地形の要因もあると考えられます。市街地には平地と台地がありながら高低差は大きくなく、基本的にはなだらかな地形であってお買い物をはじめ町内での移動にさほどストレスを感じることはありませんでした。
また、交通の便が悪くないということも住みやすさに繋がっています。町内には鉄道がありませんが、路線バスの運行本数は多いとは言えなくとも決して少なくありません。民間のバス(十勝バス、拓殖バス)の他に町営の循環バスも運行されています。加えて、町内の市街地の北側に高速道路(道東自動車道)のインターチェンジがあり、札幌方面、釧路方面の両方へのアクセスもスムーズであると感じました。
そして、これは特に強調したいところでありますが、地域の自治体、そして町役場の職員の皆さんの対応がとても優しく、親近感があったことを挙げておきます。音更町役場に行くと町民である私と妻が座る時に「お客様、どうぞこちらへおかけください。」とのお言葉をかけていただきました。「お客様」と呼ばれたのは音更町が初めてではないでしょうか。それまで住んでいた地域では「こちらに座ってください。」と言われたように思いますが、音更町は違っていました。このようなホスピタリティの意識が心地よく感じられました。
総じて、音更町に住んで感じたことは居心地の良さでした。深く観察していたわけではないのですけれども、感覚として音更町民が音更町に住んでいることに誇りのような意識を持っているように思えていました。日ごろから通りを散歩している時には見知らぬ方であっても「こんにちは。」などの挨拶が交わされるなど地域内でのコミュニケーションが日常的に行われていて、自然発生的な地域コミュニティがあるようにも感じられました。音更町に住んでいる方々には「そこまで深く考えてないよ。」と仰られる方がいらっしゃるかもしれませんが、他地域から転居してきて同じように感じる方は少なくないように思っております。少なくとも私には音更町での経験は貴重なものでありました。
このような経験を通して「ずっと音更町に住み続けたい」と思ったのを思い出します。

振り返ってみますと、地域社会が未来に向けて持続していくためには地域が「住み続けたい街」であることが求められると考えて良いと思われます。地域に住み続けたいと思う住民が多いほど、世代を超えて地域社会が維持され、地域社会が成長することに繋がるのではないでしょうか。地域社会の維持と成長によって地域社会が二世代、三世代にわたる多様な世代によって構成されることになり、それぞれの世代に必要な社会資本が必要となるでしょう。若い世代には特に教育や学習の環境、高齢の世代には特に医療など、全ての世代に必要な社会資本、福祉の充実が求められることになるでしょう。社会資本、福祉の充実とはその整備、維持、管理であり、それらを担う自治体に寄せる期待も大きくなりますが、より良い地域づくりを目指して一つずつ着実に取り組むことによって安心で安全な生活環境が整い、地域社会の人口の社会増(流入数>流出数)、自然増(出産数>死亡数)にも繋がることになるでしょう。人口が増加することで住民間の交流が広がり、深まるでしょう。このようにして「街の幸福度」の上昇も期待できるのではないでしょうか。

さて、先の「街の幸福度ランキング」と「住み続けたい街ランキング」を見返していただきたいのですが、これらの自治体を見渡してみますと観光地と言われる地域が意外に少ないように見受けられます。もちろん観光地が全くないわけではなく、東神楽町(街の幸福度1位)には旭川空港があり、東川町(街の幸福度2位)には天人峡温泉や旭岳、黒岳があります。また音更町(街の幸福度4位、住み続けたい街3位)には十勝川温泉、釧路町(住み続けたい街8位)には釧路湿原もあります。しかし、その他の地域にもたくさんの観光地、景勝地がありながら、このたびのランキングでは観光振興が進む地域、自治体が必ずしも上位にはなっていないようです。このことから「街の幸福度」と「住み続けたい街」という面では観光との関係性が高くないのではないかという仮説が考えられます。

地域づくりはそれぞれの地域ごとに異なる考え、異なる手法があると思っておりますので、ここからは私見となりますが、観光振興に注力することも大切ではあるけれども、地域住民の生活環境と社会資本の整備、充実を進めることによって地域の人口増を目指すことはできないものかと考えております。一方、地域づくりを推進するためには地域の経済が豊かになることも必要であって、地域経済の振興のために地域産業、とりわけ観光事業に寄せる期待が高くなることも理解できます。
ただし今回考えてきたように、地域社会の持続のためには地域住民の幸福度を向上させ、また地域住民が住み続けたいと思える地域づくりを進めることは必須であると考えます。地域が抱える問題に取り組み、解決することは自治体だけでは難しく、地域全体が一丸となって取り組むことができれば良い、とは言えども、言うは易し、行うは難し。なかなかそう上手くはいかないというのもまた現実でしょうけれども、それでも取り組むべき課題であることには間違いがないと思っております。

2021.10.27

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